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カンダで羊をもらった


さて、唐突だが、あなたが今までにもらったプレゼントの中で一番風変わりなものは何だろうか?ちなみに僕の場合は「羊」だ。誕生日のプレゼントにボーイフレンドからイグアナをもらった、なんて話を聞いたことがあるから「羊」は奇妙なプレゼントのうちには入らないのだろうか?いやいや、僕にとっては十分変わったプレゼントだ。しかも、その羊を後でみんなで食べようと言われた。みんなで食べるのだったら、わざわざ僕にプレゼントしてくれなくてもいいのに。羊が所有物になったことでかえって罪悪感が増した。


話は友人のザールをセネガルのカオラックに訪ねたことから始まる。手元にあるメモを見ると彼の実家の住所は「カオラック市カンダディオラ」となっている。僕は町に着くとすぐにカンダディオラという場所がどこか聞いて回った。ところが、人によって指差す方向がまちまちだ。この人たちは本当にカオラック市民なのだろうか?

半ば諦めかけて町外れを歩いていると、少年に声をかけられた。「何を探しているの?」「友達の家」「なんていう名前?」「ザール。カンダディオラのザール」と僕が投げやりな感じで答えると。少年は「ああ、知っているよ。近所だから」と実にあっけらかんと言った。必死で探しているときには見つからなくて、あまり力が入っていないときに見つかる。そういうものだ。「で、カンダディオラはどこ?」と尋ねると、「あそこさ」少年は道路わきのゴミ捨て場のような空き地の方を指差した。よく見ると空き地の向こう、砂埃と陽炎で今にも蒸発してしまいそうなほど彼方に集落が見える。

少年に連れられて集落の入り口まで来ると、ザールの友人だという青年に会った。彼の話によればザールは出稼ぎでティエスという町に行っているそうだ。ティエスといえばダカールからわずか80kmほどの所なのに、僕は200km離れたカオラックまで来てしまった。とりあえず、彼の家でお茶をご馳走になって、その後、ザールの実家に案内してもらった。なにしろ、ザールの母親や兄弟姉妹、親戚一同、近所の人々、さらには羊や鶏を一緒に紹介されたものだから僕の頭の中は混乱した。しかし、突然の東洋人の訪問に住民たちの混乱はもっと大きかったようだ(笑)


数日後、ザールのいないカオラックを後にした僕は、ティエス行きの乗り合いタクシーに乗った。結局、彼の居場所はティエスでもなくそこから車で1時間ほどのティワウォンという小さな町だった。街の中心は美しい並木道になっていてまさにオアシスという感じ。教えられたとおり第一病院の向かいの家を訪ねると、ザールや下宿のママ、その家族たちがみんなで迎えてくれた。「1年ぶりだね、フミ。カンダを訪ねてくれたんだって?ママにはあった?兄弟たちは?」僕はうなずいた。カンダディオラという地名は略してカンダと呼ばれているらしい。

ひとしきり思い出話に花を咲かせたあとザールが突然切り出した。「そうだ、フミ、おまえに羊をやるよ」「えっ?」僕は思わず聞き返してしまった。「ヒ・ツ・ジだよ。カンダで見たろ?あの子供の羊だ。あれ、おまえのだ。今度来た時に一緒に食おう」 「メ、メ、メルスィ」と僕。あっさり羊をもらってしまった。

しかし「次にセネガルを訪れるときは、あのカンダの子羊が食べられるときなのだ」と考えると、なんだかかわいそうで、僕はそれ以来セネガルと疎遠になった(笑)時々、ザールから「羊の成長報告」のメールが入ったが、それもやがて途絶えた。それはおそらく、僕の羊が誰かの胃袋に入ったというサインであろう。


2006年8月記



今日の一枚
” ポートレイト ” セネガル・ダカール 2002年


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