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ティワウォン


セネガルのティワウォンという小さな町。町外れのバスターミナルで乗り合いタクシーを降りると、そこから街の中心部まで1kmほど歩かなければならない。鉄さびの浮いた単線の線路を越えると道は緩やかにカーブを描いてやがて並木道になった。アフリカの荒野を走った後で緑のある町に入るといつもほっとする。涼しい木陰には住宅と開店休業状態といった感じの店が並ぶ。

電話で教えてもらったとおり第一病院前の家を訪ねる。ここがザールの下宿先のはずだ。門をくぐると砂地の広い庭があった。その奥正面に大家の母屋、そして右手に離れの小屋があった。庭で洗濯物を干している若い娘さんに話すと、彼女は離れから友人のザールを呼んできてくれた。「フミ、久しぶり」「やあ、またセネガルに来ちゃったよ」
こうして僕は数日、ザールのところでお世話になることになった。ほかの下宿人同様、夕食は大家のママの家族と一緒に庭でいただいた。セネガルの人たちは客人に対して本当に親切だ。実は昼食もどこか知らないお宅でご馳走になっていたりする(笑)小さな町では旅行者向けのレストランなど無いから非常に助かる。


ザールは道路工事の日雇いの仕事をしていた。朝6時に家の前の道路でクラクションが鳴らされ、大きなトラックが労働者たちをピックアップしていく。彼は100km以上はなれた道路建設現場で大きな重機を動かしているそうだ。百科事典のように分厚い操縦マニュアルを見せてもらった。

ザールの仕事の迎えで起こされると、僕は再び眠りに就くのに苦労した。コンクリート打ち抜きの床にマットレスを置いただけの寝床はお世辞にもくつろげる空間ではなかった。寝転がって上を見るとトタン屋根の隙間からもう眩しい朝日が差し込んでいる。太陽が高度を上げてくるにつれ、室温はぐんぐん上昇。そうなると暑くて寝てなんかいられない。僕は寝不足の眼をこすりながら外にあるシャワー小屋で水のシャワーを浴びた。


部屋にいるとザールの仲間たちが次々と訪れる。当然、僕が相手をする。彼らは珍しい東洋人の客に興味深そうにいろいろなことを聞いてくる。隣に住んでいるという少年が遊びに来た。その後、若い女が2人で部屋に訪ねてきた。彼女たちはウォロフ語しか話さないので、会話も途切れがちだった。僕はそういう沈黙状態が好きだが、彼女たちは気まずく感じたのかもしれない。「少し眠らせてほしい」というのでマットレスを貸してあげた。

薄暗いコンクリートの部屋の中、マットレスの上にスラッとした肢体を投げ出して見知らぬ2人の女が寝息を立てている。僕はぼんやり庭を眺める。眼もくらむようなアフリカの日差しの中で、母屋の娘さんがいつものように洗濯物を干していた。


2006年8月記



今日の一枚
” ポートレイト ” セネガル・ティワウォン 2003年


6と1/2階の小部屋  何の見返りも求めない その1




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