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ブランムーシの祭り


カラカラに乾燥した土地から戻ってくると、なんだか急に雨に濡れた木々が見たくなった。やはり生命には水と緑が必要ということだろうか。西アフリカのセネガルからパリに戻ってくると僕はベルギーに向かった。


リエージュという町でローカル線に乗り換え、山間の小さな駅で降り、さらにバスに30分ほど揺られる。スタヴロの街はアルデンヌの森の只中。辺りには除雪した雪が残っていてまだまだ冬の装いだ。僕がなぜこの小さな町を訪れたかというとレースのサーキットを見たかったからだ。古くからF1が行われてきたスパ・フランコルシャンは欧州では最も伝統のあるサーキットのうちのひとつ。一般公道を含む全長7kmのコースはアップダウンを繰り返しながらアルデンヌの高原地帯を貫く。

冬のフランコルシャン・サーキットは閑散としていた。グランドスタンド前からコースに入るといきなり壁のようなスロープが目の前にそそり立つ。この「オールージュ(赤い水)」と呼ばれる急坂をF1マシンは300キロ近いスピードで駆け上って行くのだ。テレビの映像を思い浮かべつつコーナーの一つ一つを確認しながらコースを歩き始める。
結局、6kmを歩き最終セクションまで来てしまった。突然、ヘリコプターが現れ僕の頭上を旋回し始めた。マイクで何か言っている。どうやらコースに入ってはいけなかったようだ。


翌日、目を覚ますとなんだか1階が騒がしい。そう、僕の部屋はカフェの2階にあった。下に下りてみると、白装束に身を包み鼻の尖った奇妙なお面をかぶった人々で店は超満員。しかも、午前中なのにもう酒が入っている。その光景を見て僕は夢かと思ったほどだ。
聞いてみると「ブランムーシ」という春のお祭りらしい。祭りのパンフレットに目を落とす。「第501回ブランムーシ」と書いてある。「えっ、501回?」ということはもう500年以上も続いているのか。

僕の傍らに来た女性は「そう、500年も続いているすごく伝統のあるお祭りなのよ。昔、人々は春を祝うお祭りで酒を飲み交わしたの。本当は修道院の僧侶たちもその宴に加わりたかったんだけど立場上お酒は飲めないでしょ。そこで、全員が白い布と鼻のとがった不思議なお面をかぶって誰が僧侶かわからなくしたの。晴れてすべての人々が祭りの日に酒を飲み交わすことが出来るようになったというわけ。それが15世紀末のこと。ブランムーシとは『白い衣』という意味よ」そう説明してくれた。なるほど、非常に理論整然とした成り立ちのお祭りだ。


というわけで今回の写真は「記念写真」になってしまった(笑)彼らに職業を聞いたら全員「僧侶」と答えた。


2007年3月記



今日の一枚
”ブランムーシ ” ベルギー・スタヴロ 2002年




fumikatz osada photographie