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アッ・サラーム・アライクム


「ハロー!」というのが唯一、世界中で通用する「あいさつ」だと思っている人は、まだ世界の半分しか知らない。もうひとつ、非常にメジャーな挨拶のことばがある。それは「アッ・サラーム・アライクム」。正確に訳すとこちらは「こんにちは」ではなく「あなたの上に平安を」となる。
この「アッ・サラーム・アライクム」はアラビア語だがイスラム教と共に世界中のイスラム社会に広まった。西アフリカの国々でも使われる挨拶の言葉が、中国のイスラムコミュニティーでも通じるのはちょっとした感動である。と同時に宗教というものの持つとてつもない影響力を感じる。今度、イスラム教徒の人々に会ったら「アッ・サラーム・アライクム」と挨拶してみるとよい。相手はまず、「ハッ」と驚いてその後で必ず「ワ・アライクム・サラーム(あなたの上にも平安を)」と返してくれるはずだ。それが地球上のどこであろうとも。


不思議とイスラム文化に縁がある。初めてのルームメイトはモロッコ人だったし、ニューヨークのアパートにはアラビックと西アフリカの友人たちがよく遊びに来ていた初めて僕に異国情緒を味あわせてくれたのはモロッコのタンジェという町だった。まあ厳密にいうと、途中からそれは「縁」というものを通り越して、気がつくと僕は自発的にイスラムの国を訪れるようになっていた。
イスラムの環境の中に身をゆだねるとなぜか安心する。モスクから流れるアザーンの声、羊肉のニオイ、そして街のつくり、礼拝で区切られた人々の生活のリズム、人々のものの考え方、道徳観などすべてをひっくるめたイスラム文化の普遍性が心を落ち着かせるのだ。
イスラム文化の基準を満たしているという安心感。非常に俗物的な例えで申し訳ないのだが、それはこういった状況ににている。全く知らない国で何を食べるべきか迷って腹ペコで歩いている時、ふとマクドナルドの看板を見つけたような感じだ。


今回の旅でも僕はイスラム文化圏の街をひとつ選んだ。中国甘粛省にある臨夏という街だ。初めての街なのになんとなく懐かしい感じ。迷路のような街並みもかつて同じようなものを世界のあちらこちらで見た。人をもてなす心、情が厚くて人懐っこい人々、臨夏もまたイスラム文化の基準を満たしたなかなか良い街だった。


2008年12月記



今日の一枚
” 微笑む男 ” 中国・甘粛省・臨夏 2008年




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