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砂漠の端を歩いた


中国新疆ウイグル自治区カシュガルでの撮影を終えた僕は寝台列車に20時間揺られて、トルファンに程近いピチャンという街に降り立った。目的は砂丘を撮ること。「もう、こうなったら『ぶらり旅』のついでに『グルメ情報』も撮っちゃえ」という感じである(笑)そう、僕は砂丘マニアでもある。そのきっかけとなったのは、もうずいぶん昔に訪れたカナリア諸島の砂丘だと確信している。あれ以来、僕は砂丘の虜になった。

そういえば僕が「Dune」という作品を制作してから早くも7年の月日が経ってしまった。鳥取砂丘、静岡の遠州大砂丘、ベトナム・ムイネ・・・その後も機会さえあればあちこちの砂丘を訪れている。砂丘の上に流れるゆったりとした時間が僕は好きだ。互いが干渉せず、干渉されずおもいおもいの時間を過ごしている。これは万国共通の砂丘の風景だ。


僕は「圧倒的な規模の砂丘群がなくても、たった一つの美しい砂丘があればいいのだ」と勝手に思い込んでいた。しかし、ピチャンの砂丘を見たときに「やはり『量』の迫力に勝るものはないのかな」とあらためて考えさせられた。それはもはや海岸線の小さな砂丘などではなく砂漠の端だ。街の背後に巨大な砂の峰がそそり立っている。

それにしても、この規模はすごい。丘陵に砂が積もった砂丘は高さ100メートルは優にあるだろう。僕は息を切らしながら頂上まで上り詰め、転げ落ちないようにてっぺんの三角の部分に馬乗りになった。
「どうだ!頂上を征服したゾ」
しかし、その向こうを見渡して僕は笑った。大笑いした。なぜかって?そこで終わりかと思ったら100メートル超級の大砂丘が地平線まで続いていたからだ。


僕が見てきた世界各地の砂丘にはそれぞれ特徴があった。ピチャンの砂丘は砂の目が非常に細かい。新疆ウイグル自治区の砂漠は土漠が多く、山も泥が固まってできたよう。街はどこも埃っぽくて、濛々と土煙が舞い上がる。そういえば春先に中国から日本まで飛んでくる黄沙は目が細かくて軽い。ピチャンの砂丘はその細かい泥が積もってできたような感じだ。
こうした砂の性質は砂丘の形にも影響する。細かくてサラサラしているから、例えばサハラの砂丘のようにはっきりした風紋が残らない。エッジが立たないから形がまろやかだ。そして・・・なにより登り難い。蟻地獄に捕まったアリのように僕はもがく。砂の色も砂丘の重要な特徴だ。ピチャンの砂の色は茶色。ちなみにサハラは赤と白、カナリア諸島は黄色、フランス・アルカションはピンク、鳥取はグレーだった。


その雄大さに魅せられ、時間を忘れてシャッターを切った。砂埃の中で酷使される僕のカメラはかわいそうだ。日が西に傾く。引き返す時間も砂丘歩きの重要なポイント。名残惜しいが、残してきた足跡とところどころに立ててきた目印の木の枝をたどって引き返す。出口で深々と頭を下げ一礼「ありがとうございましたっ」これぞ正しき砂丘道。


2006年9月記


今日の一枚
” 砂丘 ” 中国・新疆ウイグル自治区・ピチャン 2006年


 パリダカ




fumikatz osada photographie