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バンジージャンプ・カフェ


マンハッタンの西側、ウエストSt.沿いのハドソン川埠頭にはさまざまな試みをする店が現れては消え、僕を楽しませてくれた。 中でも印象的だったのは「バンジージャンプができるカフェ」。
埠頭に設置された高さ数十メートルの巨大クレーンの先に籠がぶら下がっていて、そこから客がハドソンの川面に向かってダイブする。その絶叫シーンを見ながら食事ができる、というのが店の売り。


勇者はクレーンの籠へ、臆病者はテーブルへ。たとえ「負け犬」と呼ばれても、僕は断固としてテーブルに直行だ。大方予想はつくだろうが、このカフェの欠点は「落ち着かない」ということだ。
テーブルを挟んで話をしていても、これでは会話が弾まないではないか。後ろでビョーンと伸び縮みしているバンジー野郎どもに気は取られるし、話も落ちてくる人の絶叫でさえぎられる。 考えてみれば、バンジージャンプと食事は全く逆のベクトルを向いているような気がする。一歩踏み込んで言わなくてもいいことを言えば、口からモノを吐きだす行為と口にモノを入れる行為の差だ。


経営者もそう考えたかどうかは定かでないが、数ヵ月後「バンジーカフェ」は熱帯雨林が生い茂る「アマゾンカフェ」に取って代わられていた。


2006年9月記



今日の一枚
” バンジージャンプ・カフェ ” アメリカ・ニューヨーク州・ニューヨーク 1992年




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