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アグネス・ラム的な


髪に挿したハイビスカスの花、というとアグネス・ラムというハワイ出身のモデルを思い出す。グラビアアイドルの先駆けともいえる彼女は70年代ビキニ姿で世の男性たちを魅了した、いや少なくとも僕を魅了した。 しかし、髪に花を挿した写真は実はそれほど多くないようだ。記憶というのは脳内で脚色されて行くものなのかも。


古い話から入って恐縮です。若い人たちはアグネス・ラムと聞いても全くピンと来ないだろう。どちらかというと、フラダンスを踊る女性の衣装を思い出してもらった方が良いのかも。 彼女たちは耳の上に南国の花を挿しているでしょ?フラダンサーに限らずポリネシアの国々の空港ではアロハシャツを着てウクレレを弾いている男性とともに花を髪に挿した女性が観光客を出迎えてくれたりするね。
あの髪に挿した花飾りというのは、ポリネシアの文化をショーアップするための小道具だと僕は思っていた。普段の生活ではなく、晴れの場「モデルの写真集の撮影」とか「観光客の歓迎セレモニー」とか「ショーの舞台」でのみ身につけるものだと。


ところが、サモアの街を歩いていると、そこかしこで花飾りの女性と遭遇する。「サモアは観光業に従事する女性がものすごく多いんだな」と驚いてしまった。しかし、滞在しているとだんだんその花飾りの意味がわかってくる。高校生より上、大人の女性は普段から花の飾りを髪(耳の上)に挿している。つまりこれはサモア(おそらくポリネシア全体)の女性の身だしなみなのだと気付く。
造花をつけている女性もいれば、本物の花をつけている人もいる。ハワイなどでは未婚、既婚によって着ける側が変わると何かで読んだけど、サモアは特に決まりはないみたい。


僕が感動したのは、外出するときに庭先の花を一輪摘んでスッと髪に挿すサモアの女性の仕草だ。どの花にしようかあれこれ迷うこともなく流れるように、そして手鏡もないのに完璧な位置に花を挿す。
高価な宝石でも、職人が作った工芸品でもなく、野に咲く花を一輪摘んで身につけるというところが自然と共生するポリネシア人のアイデンティティなんだな。


そして、僕はカタコトの日本語でアグネス・ラムが歌っていた「雨上がりのダウンタウン」の一節を口ずさんだのであった。



2019年5月記


今日の一枚
” ポートレイト ” サモア・マニノア 2019年


ポリネシア その1




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