<< magazine top >>








ひっ絡まった電線


ホテルに着いて部屋に案内される。「バスルームはここ、エアコンのリモコンはこれ。テレビのリモコンはそれ。で、部屋の灯りは・・・」と壁の前に来て従業員は大抵つかえる。目の前には10個ほどのスイッチがズラリ。「出ました。インド名物のスイッチ群!」とからかうと、従業員は頷いて照れ笑い。
「パチパチパチ」とすばやくチェックし、「ああこれが部屋の灯り」「間接照明」「これは・・・浴室ですね」「これがベッドのライト」と説明していく。「解りましたか?」ってあなたが行き当たりばったりで説明してるものを客の僕が一度で理解できるわけないでしょ(笑)それでもなお、何のスイッチかマジック書きするようなことは絶対にしない。
結局、後ほど必要に迫られ自分でパチパチと再確認することになる。それでも10個の内6つほどは何のスイッチだか結局わからずじまい。


さて、こういったインド風混沌の極めつけはオールドデリーの町並みかもしれない。町中にひっ絡まった電線がぶら下がっている。太いものから細いのまで、とにかく無数の電線が頭上を巡っている。日本で生まれ育った僕は、比較的電線の張り巡らされた風景には慣れているはずなのにその風景は圧巻だ。まるで電線に食いつぶされた街みたい。果たしてすべて生きているのか?それとも、切れたのをそのままに新しい線を増設していった結果がこの混沌なのか?
けれども、この電線1本1本に住民一軒一軒の生活が乗っかってると考えるとなんだか切なくなってくるなぁ。 街の電線はひっ絡まってても、どれでもいい、どれかひとつは自分の家に繋がっていないと困ってしまうだろう。誰だって真っ暗な部屋でご飯食べたくないものな。身にしみる1本の電線のありがたさ。できれば2本あったほうが安心できる。3本繋がっていればもっと安心?
つまり、インドでは多チャンネルを持っていることがひとつのステータスなのかもしれないね。となれば部屋のスイッチも見栄張ってたくさんつけたくなる。僕の頭の中で生きてるのか死んでるのか解らないスイッチと、生きているのか死んでるのか解らない電線が繋がった。


2013年4月記



今日の一枚
” ひっ絡まった電線1 ” インド・デリー~アグラ 2012年


ひっ絡まった電線再び




fumikatz osada photographie