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ひっ絡まった電線再び


「インドもバングラデシュも似たようなものだろう」というのがバングラデシュを訪ねる前の僕の先入観。
旅の途中、あるバングラデシュ人が興味深げに僕に聞いた「どうだい?バングラデシュは気に入ったかい?けっこうカルチャーショック受けたんじゃないの?」そこで僕は答えた「インドの経験があるからそれほど面食らってはいないよ」「インドに行ったことがあるのか。確かにインドと似てるところもある。でも、あっちはヒンドゥー教の国、こっちはイスラム教の国だからね」
(実際にはインドにもバングラデシュにも他の教徒はたくさんいますよ、とまずお断りしておいて ...) 極めて無責任に僕なりに両国の印象を述べさせていただくと、インドとバングラデシュってリクシャや長ーい列車、町並み、そういった同じハードの上に異なったソフトが乗っかってるという感じ。ソフトつまり国民性はずいぶん違うような気がする。


言葉で説明するのは難しいのだけれどちょっと面白い例えを発見した。それは「ひっ絡まった電線」以前インドの回でお話した内容を憶えておいでだろうか。まるで町全体を絡め獲るように電線はオールドデリーを走り回っていた。そして、送電線は無計画に張られているのに家の脇に置いてある洗濯機はなぜかきちんとまわっている不思議(笑)
バングラデシュに着いた日、首都ダッカで見た風景はインドと同じ「ひっ絡まった電線」であった。しかし、次の瞬間僕はインドとの違いに気づいてしまった。なんと、電線は長さを少し余分に取ってあり、残った分は輪っかにして束ねられているではないか。
そう、バングラデシュ人は斯様に真面目で倹約家、押しが弱く慎み深い。この国民性が宗教観から来ているのか、東アジアに近いという地理的理由から来るものなのか、はたまた大国ではないというところから来ているのかは定かでない。うん、確かにバングラデシュは小さな国だ。この国にいるとインドがとてつもない大国に思える。自前の産業を持ち、IT産業が芽吹き、教育水準も高い。人口も多いし、国土も広い。世界各国にインド人のネットワークを持っている。
しかし、旅行者にとってのインドのイメージというのは、新興の経済大国ゆえに「観光客ズレしていて、かなり強引で、油断をするとすぐにボッたくられんじゃないか?」というネガな部分が強調されているようだ。間違ってはいないかもネ(笑)しかし、僕自身はインド人の積極性やドライさにむしろ感銘を受けた口だ。


もうひとつ、インド人とバングラデシュ人の違いを感じた出来事を書こう。インド人は僕にこう尋ねた。「今度、日本で商売を始めたいんだけど何屋が儲かると思う?ただし、インド料理屋以外で」インド人って根っからの企業家なのだ。「ところでなぜインド料理屋以外なの?」と聞くと「だって、日本には腐るほどインド人のやってるインド料理屋あるだろう」余りにも的を得たお答え(笑)人と同じことをやったんじゃダメ。アイデア勝負で新しいところを開拓して行く。これがインド人魂。
一方、バングラデシュ人は僕にこう尋ねた。「今度、日本に行きたいのだけど何かいい仕事ある?」どこかの企業の一員として与えられた仕事をコツコツと真面目にこなす。そのなかに一片の「諦め」みたいなものが混じってる。これがバングラデシュ人。日本人に凄くよく似ている。


つまり、日本人の僕がインド人に対して持つのは自分とは全く違った気質に対する一種の「憧れ」であり、バングラデシュ人に対しても持つのは自分と似た気質に対する「共感」である。隣り合う国、似たような容姿、共通する文化も多いのにインドとバングラデシュって実はずいぶん違うようだ。



2015年4月記



今日の一枚
” ひっ絡まった電線 ” バングラデシュ・ダッカ 2015年




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