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カステルモーラ


「名は体をあらわす」というが、地名を見るとその場所の特徴もわかったりする。世の古今東西に関わらずそうではないだろうか。
例えば、ミラボーという場所ならラテン語のミラ=見る、眺め、ボー=美しい、で眺めのよい場所、ミラマールなら海が見える場所がおぼろげに想像できるという具合だ。


だから、シチリア島でこの奇妙な形の山の上にある集落の名前をたずねた時、地元の人々が口にした地名は「カーサミラ(眺めの良い家)」だと僕は勝手に思い込んでいた。
非日常的な立地条件で、しかも「眺めのよい家」なんて素敵な地名を聞いてしまうと行ってみたくなるのが人の常。僕はさっそく山のてっぺんの空中庭園へ行ってみることにした。細く曲がりくねった急坂を上り詰めると集落の中に入る。眼下には絶景が広がる。ちょうど階段の踊り場のようにタオルミナの町、そして、その遥か先にイオニア海がかすむ。


タオルミナの地形は海抜マイナス0mから500mまで味わいつくせる。一番低い名所が映画「グランブルー」の舞台にもなったイオニア海の海中だとすれば、一番高い名所はここに違いない。なるほど「カーサミラ」以上にマッチした地名はない。
ところが、この集落の名前を後で調べたら「カステルモーラ」だった。日本語にするとCastel=城、Mola=石臼だそうだ。まず自分の耳の悪さに落胆。うーん、石臼みたいな形をしてるから「石臼山(城)」。そっちの命名パターンか・・・とそっけない名前にもやや落胆。


ええい、この際石臼山でもかまわぬ。一度くらいはこんな不便で特異な場所で暮らしてみたいものだ。

2010年4月記



今日の一枚
” カステルモーラ ” イタリア・シチリア島・タオルミナ 1994年


 葬列の過ぎぬ間に




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