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なんと、始発の次は終電


「終電のあとは始発まで列車がない」という状況は一般的だが、「始発のあとは終電まで列車がない」というのはかなりの緊急事態だ。


スペインのラ・マンチャ地方の名物といえばドン・キホーテ(もちろん、安売りのお店ではなくセルバンテスの文学作品の方)と風車のある景色。そして、その名所といえばカンポ・デ・クリプターナとコンスエグラだそうである。ということで、僕は昔々マドリードから列車に2時間揺られて、クリプターナに風車を見に行った。

当時のクリプターナは宿を探すのにも苦労するほどの田舎町。列車の駅からとぼとぼと1kmほど歩いてきた僕はなんとか一軒のオスタルを見つけた。
さて、問題の風車群なのだが、町の片隅の丘陵地帯に点々と放置されていた。「放置」なんて書くとなんだか味も素っ気もないが、雑草の生えた丘陵には壊れた車やら、骨だけになったソファーやら、ゴミやら家畜の死体やらがポイポイと捨てられていて、それらと一緒に風車もまた放置されていたのだ。


けれども、クリプターナの町の小ささはかえってラ・マンチャの大地の大きさを際立たせ、そっけなく置かれた風車もまた、いい具合に荒野の雰囲気を醸し出しているのであった。もし、クリプターナが小ぎれいに整備された公園で、真新しい風車とドン・キホーテと従人サンチョ・パンサの蝋人形が飾ってあろうものなら、僕は容易にタイムスリップできなかっただろう。

しかし、田舎には常に「不便」というものが付き纏う。それは列車の本数だった。マドリードに戻るために駅の時刻表を見たら、停車する列車はなんと1日に2本。朝4時の始発の次は夜9時の終電だった。ちょっと極端過ぎやしないかい?


そんなわけだから出発の朝、僕はかなり気合を入れて早起きした。いや、正確には眠れなかった。宿はバルの2階で深夜まで下がうるさかったし、3時過ぎには起きなければならないとなると眠れるはずがない。
あいにく早朝の村の広場にはタクシーの姿もなく、結局、重い荷物をガラガラ転がし歩いてなんとか始発に間に合った。

ここからが僕の旅にはありがちなオチ。どうやら8km離れたアルカサル・デ・サンファン駅を使えばたくさん列車があったらしい。ガイドブックすらろくに読まず旅をしていた若き日々。今でも風車の写真を見ると妙にサッパリした電車の時刻表を思い出す。


一方、ドン・キホーテの方だが、何度読んでも居眠りというありさま。「自分は騎士だ」という妄想にとりつかれた主人公の可笑しくも悲しいお話。比較的好きな部類の物語なのに、どうも長々しい口上に辟易としてしまう。笑えないお笑いを見ているようだ。しかし、ドン・キホーテは長い作品(実はこれも挫折する原因)だから、もしかしたら後半、俄然面白くなってくるのかもしれない。
やはり、僕には「安売りの騎士」の方が合っているのかな。

2010年5月記



今日の一枚
” 風車のある風景 ” スペイン・カンポ・デ・クリプターナ 1993年




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