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ラケット VS カメラ


日に日に暖かくなってゆく。冬の間縮こまっていた体を動かしたくなる。そんな季節。
お金をかけなくても仲間たちとスポーツは楽しめる。日本の公園でゲートボールをやっているご年配、サッカーをやる子供たち。みんな楽しそうだ。


一方、パリの公園といえばまずペタンクという鉄球を使ったゲームを思い出す。ゲートボールほどの広さのコートで行われるそのゲームは通常1人から3人のチームで行われ、コショネットと呼ばれる小さな木球にできるだけ近づくように手玉の鉄球を投げて得点を競う。
激しいスポーツではないので「お年寄り向け」かと思いきや、実はこのペタンク、若い人たちにも熱心な愛好家がいる。夕暮れ時は、老いも若きも街角のコートに集って鉄球を投げる。ペタンクはフランスの風景の一部だと僕は思う。


しかし、ペタンクはどちらかというと大人のスポーツ。パリで子供たちに人気のある公園の遊びといったら、意外や意外「卓球」かもしれない。公園には必ずといっていいほどコンクリート製の常設卓球台があって、子供たちが順番待ちをしながらゲームを楽しんでいる。


僕の「サーブ」という作品は2枚の組写真だ。写真を撮ったのは、たしか13区のイタリア広場の近くだった。天気の良い午後、公園のベンチに腰を下ろして新聞を読んでいると、少年がやってきて一人で卓球の練習を始めた。皆が集まってくる時間にはまだ間がある。つまり彼はこの日「卓球台一番乗り」の子供だ。
ご想像のとおり一人でやる卓球の練習はけっこう大変だ(笑)しかし、あいにく僕の手元にあったのはラケットではなくカメラ。それでも、球拾いぐらいはできるだろうと練習相手になることにした。


それにしても、サーブを待つ瞬間ってどうしてこんなに緊張するのだろう。レシーバーの主観でファインダーを覗くと僕の心臓はドキドキと高鳴る。静寂の中で公園の木の枝がそよぐ音だけが聞こえる。サーブの体制に入った少年の動きが一瞬止まる。
次の瞬間、少年のラケットがすばやく振られ、僕は反射的に上体を起こした。あっという間に少年のすばやいサーブは鋭角的にテーブルの一番端に突き刺さった。


僕がラケットを握っていたとしても手も足も出なかったであろう。というわけで、僕の精一杯のレシーブがこの写真。少なくともカメラでは少年のサーブを捕らえることができた。それだけで満足である。
やがて、卓球台の周りに子供たちが一人また一人と集ってきた。今日も卓球台は大盛況。

2010年4月記



今日の一枚
”サーブ#2” フランス・パリ 2001年


公園論




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