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BAJAN(バハン)


「降りたいときは“BAJAN(バハン)”と大声で運転手に知らせるのさ」帰りのバスの中で隣の席に座った男がそう言った。できればそれは行きのバスの中で教えてもらいたかった。僕は降り方が分からなくて、結局、路線バスの終点まで行ってしまったからだ。


土埃の舞う広場にバスを止めると、運転手はエンジンを切りながら「終点だよ」とそっけなく言った。アスファルトに砂の浮いたメキシコの住宅地、やがて舗装は途切れ途切れになり、その先はサボテンと岩山だけ。


素敵な教会を見つけた。僕が1時間ほど休息している間に、野良犬が1匹、少年が1人、少女が1人前を通った。いずれも教会の前で一休みする東洋人を奇異の目で見ながら。


「バスの降り方」を教えてくれた男はこう続けた。「どこから来たんだ、ん?東京か?」「おい、世界一大きな都市はどこだか知ってるか?」僕が返答に困っていると男は自慢げに「メキシコシティだよ」と言った。

何年も経って男の言葉を思い出し地図帳で調べた。 -メキシコシティ都市圏の人口は2000万人- 本当だった。


2005年5月記


今日の一枚
”教会” メキシコ・シウダードファレス 1995年


1 インターステートハイウェイの夜明け




fumikatz osada photographie