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金鳥のCM


毎年梅雨の頃になると始まる金鳥のラジオCMを僕は密かに楽しみにしている。CMはミニドラマ仕立てで同社の様々な虫除け商品を宣伝する。2016、2017年は大沢くんと高山さんという中学生の男女の甘酸っぱい青春の機微を描いた金鳥少年シリーズ。昨年、僕は第三弾を楽しみにしていたのだが、金鳥さんは現状に満足することなく攻めます。ガラッと趣向を換え「子供占い師によるピタリと当たる虫除けプレシャワー占い」に。しかし、僕は子供を使ったCMはあまり好きではないので今ひとつ響かなかった。 私的には1年ブランクがあったけれど今年の作品は面白い。


題して「G作家の小部屋」シリーズ。ゴキブリでありながら作家である先生へのインタビューという設定。6本の脚にインクをつけて原稿用紙の上を這いずり回るという奇妙な執筆スタイルで一世を風靡する先生が大いに語る。
例えば、コミュニケーションについて意見を求められると「最近の若者は『ゴキブリ?ムリ、ムリ』と端からコミュニケーションを拒絶してしまう」「『ゴキブリと一緒にお風呂に入るのはムリ』とか『ゴキブリと寝るのだけはムリなのよ』とかせめて何がムリなのか語り合って欲しい。それが歩み寄りというものだ」「そこで初めて『まずは一緒にお食事でも』となる」
聞いていて「う~ん、なるほど」と感心し、「そんなバカな」と我に返ったところで商品名がかぶさる。「マジでウザいゴキブリに、金鳥ゴキブリがうごかなくなるスプレー」もう、ムリなものはムリなのよ、ウザいな。シュッ。見事に「コミュ障気味の軽薄な若者」のテーマで完結している。


コピーライターが花形の職業で「広告批評」なんて雑誌を読み漁っていた昭和な僕からすると、どーも今のCMは浅いというか、余裕がないというか。
特に携帯電話会社のはひどい。犬を出したり猫を出したり。家族割りだから唐突に「家族設定」。短絡的でしょ。時代劇はいいけれど登場人物がやたらに多い。話の展開が速すぎる。1話で完結しないから1回見逃すと話の筋がわからなくなる。果たしてあれについて行ってる視聴者はいるのだろうか?僕には作り手のマスターベーションにしか見えないけど。
もっとひどいのは「つづく」とシリーズものを匂わせて作り手自身が続編を投げ出してしまうCM。残された視聴者はどうするんですか?(笑)「つづきはWEBで」とインターネットに誘導するもの。CMの続きを見るためにサイトにアクセスするほど暇じゃないし、あなたの会社に興味もないです。
CMとは30秒なり1分なりできちんと話を完結させる。僕なんかそれを一流のCMディレクションだと思ってるところがあるね。


金鳥の作品はCM広告黄金期のモチベーションを保ち続けている数少ない例かも。プロによって練りに練られている感じがする。同社の虫除け商品のCMに「ぶら下げないより大分いい」というコピーがあった。「効くか効かないかはわからないけど、とりあえずウチもぶら下げてみようか」と思わせるのがCMの力だ。
しかし、企業にとって難儀な時代だなと思うのは、CM以上にネットでの商品の評判が影響力を持つようになってしまったことだ。昔は「プール冷えてます」というたった一行の宣伝コピーでプールに人が呼べたけれど、今は本当に冷えているかのレビューがネット上に載る。 ユーモアのかけらも余裕もない実に貧しい時代になったものだ。


今回の金鳥ラジオCMは同社の公式サイトでも聴けます。興味のある方、詳しくはWEBで・・・



2019年6月記


今日の一枚
” 蚊取り線香 ” 2019年




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