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ガス管のある風景


僕はシムケントというカザフスタンの地方都市にいた。この国はどこもロシア風の街並みだ。地図を見ると「シムケント旧市街」という文字が目に入る。ソ連統治以前のシルクロードの街並みが残っているのでは?淡い期待を描いた僕は、強烈な砂漠の日差しが和らいだころ出かけてみた。


地図で示された区域に脚を踏み入れてみると・・・ありました、期待通りの家並みが。そうそうシルクロードのオアシスといえばコンクリート舗装の細い路地に、石造りの家、広い中庭だよな。そして工場の内部のように張り巡らされた鉄パイプ・・・ん?この空中を走る鉄のパイプは何だろう。
通行人にパイプを指差してたずねてみた。「これは何ですか?」「ガスだよガス」はっ、なるほどガス管か・・・ってガス管がなぜ地上なのよ?例えば永久凍土の上に作られた街シベリアのヤクーツクなどでは、地盤が軟弱なためガス管はおろか下水管まで地上を通ってるという話を聞いたことがある。しかし、ここは極寒の地でもなんでもない。
似たような景色をかつてどこかで見たな、と記憶をたどる。そうだ、ウクライナの地方都市だ。ということは、これはソ連時代のインフラの名残かな?このガス管はその後ウズベキスタンの旧市街地でも見かけた。シルクロードの街並みとこのソ連時代のインフラの折衷がカザフスタン・ウズベキスタンのいわば特徴的な風景になっている。


時々ガスの臭いがする。パイプに穴が開いているのか?大丈夫?しかし、住民たちはそんな些細なことを気にする様子はない。女の子がパイプが走る路地を走り回って凧をあげようとしている。こちらでは男子と女子に別れてPK合戦。ボールを蹴る前に一瞬静寂が流れる。ガスの臭いがする。「シューッ」という音が聞こえてきそう・・・シュートっ、その途端にガス爆発!
・・・などといういうことはなく、僕の耳に入って来たのは、男子チームのゴールをこじ開けた女子チームの歓声だった。彼等にとってガス管は空気みたいな存在なのだろう。でもきっと、ここで育った子供たちの記憶にこの風景も臭いも刻まれるはずだ。


旧市街で出会うのは子供ばかりではない。
おやじさんが声を掛けてくる「よう、何してるんだい」「風情のある街並みなので写真を撮ってます。おやっさん、一枚写真を撮らせてもらえませんか?」「外国人旅行者はみんな俺たちの写真を撮って行くよ。ブログにでも載せんだろ。でも、俺たちはそのホームページを見れないんだ」と照れくさそうに呟きながら応じてくれた。
やはりここを訪ねてくる旅人は多いんだな。そのとおりでございます。HPで紹介してます。
だから、せめておやじさんがこのサイトにアクセスしてくれますように・・・


路地裏に小さな街灯が灯った。まずい。ガス管の迷路で僕は迷子になってしまった。



2018年8月記



今日の一枚
” ガス管のある風景 ” カザフスタン・シムケント 2017年




fumikatz osada photographie