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タクシー運転手 その2


ところが今、僕は乗り合いタクシーの助手席に座っている。ウズベキスタンの首都・タシュケントからサマルカンドに向かう途中だ。結局、カザフスタンもウズベキスタンも移動にタクシーを使わないとどうにもならないということが判明した。
運転手はタシュケントの長距離タクシー乗り場で僕に声を掛けてきた。結構強引に客引きされ、運賃の問いには0が沢山ついた現地通貨の金額を提示された。一瞬その桁数にひるむ。レート計算もまだおぼつかなく、またまたぼったくられているんじゃないかと懐疑的になる。先に乗っている乗客に聞いてみると皆同じ値段を提示されており「それ適正価格ですよ」と僕に教えてくれた。とりあえずそのタクシーを利用することにした。しかし、今度は一向に出発しない。そう、定員まであと1人足りないのである。乗り合いタクシーの悲しい性。太陽がジリジリと真上に昇ってくる。運転手のお兄さんは、自分の子供のものだろうか、骨の折れ曲がった赤い折り畳みの傘を日傘にして客引きを続けている。汗を拭き拭き、断られ続けること1時間、やっと最後の1人を見つけてきた。


待ってる間、少し冷静になり車内でレート計算をしなおしてみた。600円。東京-名古屋くらいの距離を走るというのに運賃はたったの600円?・・・安すぎたら安すぎたで不安になる。ガソリン代を差し引いたら儲けが出るんだろうか?といらぬ心配をしてみたりして。
車は真新しいシボレーだった。ウズベキスタン製だよと運転手は自慢げに話した。350kmの道中、一度だけ給油をした。燃料の謎がなんとなく解けた。タクシーは「METAN」とかかれたスタンドに立ち寄るのだ。「メタンガス(天然ガス)」で走っているということか?燃費がよくてCO2の排出量も少ないらしい。そういえばウズベキスタンは天然資源のある国だった。うらやましい。
そのメタンとやらが気体なのか液体なのか僕には皆目見当もつかなかったが、給油は慎重に運転手一人で行われた。客はお約束のようにスタンドの入り口で乗客は降ろされ、出口で拾われるというシステム。
取り締まりのない場所ではシートベルトを率先して外す程ゆる~いウズベキスタンなのに、スタンドでは必ず運転手だけで給油するのだから危険な作業なのかも。


半砂漠地帯の幹線道路をタクシーはビュンビュン飛ばす。前述のようにシートベルトはほぼ解放状態、途中、県境の検問所が近づくと運転手はベルトを締める。もちろん僕は常時締めてます(笑)街に入ると道路端に警察官がいてスピード違反の取締りをやっている。車にはレーダー探知機が付いていてアラームで知らせる。スピードダウン。日本も40年くらい前はこんな感じだったな(笑)
「お兄さん、サマルカンド県に入るよ。この先、景色の良いところを通るからね」すぐに前方の山肌に「サマルカンド」の文字が見えた。おお、シルクロードの古都・サマルカンドよ。
市内に入ると、乗り合いタクシーは行き先をきいて順番に各所に客を降ろしていった。ウズベキスタンの乗り合いタクシーは本当に600円で350km走ってくれた。客は4人だから上がりは2400円か。そして僕は生まれて初めてタクシーの運転手に同情した。もう少し高くてもいいんじゃないの・・・と



2018年6月記



今日の一枚
” 乗り合いタクシー ” ウズベキスタン 2017年


日傘日和




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