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苺篭 その1


ラトビアの首都・リガの通りを歩いていたら、可愛らしい木編みの篭をぶら下げてる若夫婦とすれ違がった。気になったので追いかけていって尋ねてみた。「その小さな手かごは何に使うのですか?」「ショッピング。私達これから市場に買い物に行くの」なんとなく釈然としない答え。その微妙な大きさからいっておそらく何か専用の入れ物なんだよな。しかし、ここはラトビア。英語で聞いたんじゃこの程度の答えしかかえって来ないだろう。ラトビア語で聞くべきなのだ。歩きながら僕はしばらくその答えを考えていた「たまご・・・じゃないかな?」


ある日、買い物客でにぎわう中央市場で偶然その答えを見つけた。目の前を初老の男の人が通り過ぎたのだ、あの手かごを持って。篭の中には真っ赤な苺がびっしりと敷き詰められていた。
そこで市場の青果売り場を覗いてみたら・・・ありました苺だらけ。1kgで3ユーロ(およそ400円)。100g単位なんてみみっちい値札置いてないですよ(笑)肉も野菜もだいたいkg単位。しかも食材はどれも安い。
例の篭に入った苺も並べてある。ははぁ、リピーターは篭を再利用するんだな。


一方、こちらは日本のスーパーの店内。主婦らしき女性が、平台から1本100円の長ネギをとっかえひっかえ手に取り品定めをしている。右手にねぎ、そして左手にもねぎ。両方を顔の前で合わせ、片方を平台にもどし新しいねぎを取る。何をやってるのか気になったので、そぉっと観察してみた。やがて、女性は長ネギの白い部分の長さを比べているのだと気付く。えー現在の最長記録は35cm。次々と新しい挑戦者が現れる。最後までは見ていられなかったが、おそらく彼女は平台でもっとも白い部分が長いねぎを手にしてご満悦だったに違いない。
感想を述べさせていただけるなら、実にせこい、小さい・・・しかし、身につまされる。


日本の一世帯あたりのエンゲル係数(家計消費支出にしめる食費の割合)が上昇しているらしい。食材にこだわる人が増えた、消費者が高級志向になった。そういう解説を加える専門家がいたけれど本当にそうなのか?
僕は政権の政策により物価が上がっているからだと思う。日本はデフレではなく、とっくの昔にインフレになっているのだ。食費以外のものは買い控えることができるけど食費は削れない。結果的に家庭の食費の割合が増える。
「消費者が高級志向になった」などという先生方はおそらくスーパーで買い物などしないし、長ネギの長さ比べてる絵なんて頭に浮かばない。と考えると自分の感覚は長ネギの勝ち抜き戦をやってる主婦に近いのかも。


政治家・専門家と庶民、この感覚のズレが格差なんだろう。地球上の飢餓の大部分は旱魃などの自然災害によってではなく、悪政による富の偏りによるのだと僕は思う。もちろん食糧自給率なんてのも全く関係ない。
富を持つものは高級食材を選び放題だが、持たないものはその日食うものにさえ困る。
なに、そんなことはどこか世界の辺境の話だろうと思いたいけれど、自分の身の回りのひとコマで何だか深い淵の底を覗いてしまったような気分になった。



2018年1月記



今日の一枚
” 苺篭 ” ラトビア・リガ 2016年




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