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ヘブロン その2


店主は僕を奥のテーブルに座らせ、雑巾を持ってきた。「本当に困った子供たちだ。大丈夫かい?ごめんね」コーヒー臭くなったカメラを掃除する僕の前で店主はそうつぶやいた。
もちろん全ての子供たちがこうではないけれど、絶えずイスラエルの兵士に監視され、自由も束縛される環境で育てば、鬱屈する子供も出てくるだろう。大人の世界の歪みが子供たちの人間形成に大きく影響する顕著な例かもしれない。
「子供たちに明るい未来を」とか「せめて子供たちだけは幸せに」と豪語しながら、自分たちは戦争に加担したり、国民を貧しくするような経済政策をとったりする政治家がどこの国にもいるものだ。けれども、親が不幸な世の中でどうして子供だけが幸福になれようか。子供を健全に育てたいならば、親が途方にくれないような世界を作らないといけないね。


と、ここまで書いてサイトにアップしようとしたところでこんなニュースが。米国のトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と宣言し、米国大使館の機能をテルアビブからエルサレムに移管するという内容だ。理由は一向に進まないイスラエルとパレスチナの和平プロセスを一歩前進させるため。米国は以前と変わらず中立的な立場で両国の和平交渉をアシストすると言う。
たしかに和平交渉は一進一退どころか一歩進んで二歩下がってる状態だ。しかし、それを打破するためにエルサレムをイスラエルの首都に?三段論法の真ん中が抜けてしまっているようで理解に苦しむ。もうひとつ。米国はパレスチナ問題において中立的立場であるはずがない。
あくまで中立的な立場を主張する米国が問題解決に積極的に乗り出すために、イスラエル・パレスチナ問題の最前線(エルサレム)に米国大使館を移す、というなら論理的にはつじつまがあう。しかし、エルサレムをイスラエルの首都と宣言してしまった時点で、米国は中立ではないということを自ら明言しているように思える。さて、あなたはどう思いますか?


「今まで訪れた国の中でどこが良かったですか?」とよく聞かれる。その度に僕は返答に困る。なぜなら「ああ、いいところだな」と思う場所はいくつもあって甲乙付け難いからだ。
けれども「行っておいてよかった」と思える場所はそれほどない。エルサレムとヨルダン川西岸はその1つだ。それは世界で起こってる問題の多くがここに凝縮されているから。そしてもう1つ。圧力を加えているのは巨大な国家権力であり、イスラエル人もパレスチナ人も一般市民はみな苦悩しているということが分かったからだ。



2017年12月記



今日の一枚
” キュビズム ” ヨルダン川西岸パレスチナ自治区・ヘブロン 2010年




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