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ヘブロン その1


毎日新聞を読んでいたらこんな記事が目に留まった。ヨルダン川西岸パレスチナ自治区のヘブロンに15年ぶりにユダヤ人の入植が再開。本来、入植地はイスラエル領内であるべきだが、パレスチナ自治区にも作られているのが現状。以前ここでとりあげた東エルサレムのハルホマはパレスチナ側の丘を造成して入植者のための巨大ニュータウンにした。一方、実際に生活しているパレスチナ人を立ち退かせて市街地をそのままユダヤ人入植地にする形態もある。ヘブロンは後者だ。


僕がヘブロンを訪れたのはもう7年も前のことだが、新聞記事を読んだ時にすぐに情景が目に浮かんだ。
バリケードに囲まれたセキュリティチェックを抜け入植予定地に入る。外の喧騒にくらべその区画は不気味なほど静かだった。通りに面した商店はシャッターを長らく下ろしているのか赤さびが浮いていた。ひと気のない街を自動小銃を持ったイスラエル兵が巡回している。外国人の若者が両脇から兵隊に監視されながら路上で反戦の歌を歌っている。シャッターが閉まった家の奥のほうから微かに生活のにおいがする。まだ、住んでる人がいるのだろうか?あるいは入植してきた人か?


記事を読んでその疑問が解けた。ゴーストタウンだったのはイスラエル政府が入植の許可を下ろしていなかったからなんだな。人の気配があったのは、まだ暮らしているパレスチナ住民がいるから。15年の禁がとけていよいよユダヤ人の入植が開始される。古いパレスチナ人の住居は取り壊され新しいマンションを建てるのだそうだ。最後まで粘ったパレスチナ住民もいよいよ立ち退かなければならなくなった。「住民たちは途方にくれている」と記事は記していた。


エルサレムやベツレヘムはには日々多くの外国人観光客が訪れ、街の人々の表情も比較的穏やかだった。けれども、ヘブロンの住民の表情は厳しかったな。パレスチナ人のガイドに連れられて、イスラエル兵のゴム弾による威嚇射撃を受けながら入植地を回ったという観光客もいた。
僕はといえば広場でパレスチナ人の子供たちに石を投げられ、スーク(市場)に逃げ帰った。水でも買おうと商店に入る。パレスチナ人の少年が店に入ってきてコーヒーゼリーのカップを取り、僕のカメラの前でその蓋に思い切り親指を突き刺した。コーヒーゼリーは盛大に飛散し、カメラはゼリーまみれになった。とんでもなく腹がたったので怒鳴ろうかと思ったら、一部始終を見ていた店主が飛んできてその少年を叱った「おまえ、お客さんになんてことをするんだ」おそらくそう言ったんだと思う。少年はカップをその場に捨て去り逃げてしまった。



2017年12月記



今日の一枚
” 父親の車椅子を押してシナゴグへ ” ヨルダン川西岸パレスチナ自治区・ヘブロン 2010年




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