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早速、キフヌマダムたちと御対面


キフヌ島行きのフェリーに乗り込むとすぐに船首のデッキへ。ドイツ人かフィンランド人か、旅行者の一団もデッキに出てきて、出航すると同時にのバットに並んだパンが配られ始める。うまそうだな。写真を撮らせて欲しいとお願いしたら「手作りのピザパンなの。写真だけじゃなくて食べてもいいわよ」だって。それじゃ遠慮なく頂きます。パクパク、旨い。


船は潮風を切りながら紺碧のバルト海を進んで行く。6月のエストニアの気温は陸地で12、3度。自分史上最も寒い6月だ。海上はもっと寒い。 デッキの乗客たちもぽつりぽつりと船室に引きあげて行く。それでも船首に留まる人も少なくない。まだ見ぬ島へ渡るフェリーのデッキに陣取る人の気持ちはよくわかる。行く先の海原の一瞬の変化も察知したいんだろうな。双眼鏡を覗いていた一人が、遠くを指差す。「キフヌ島か?」いや、違う。船が小さな島の脇を通り過ぎる。リガ湾には実は小さな島が沢山あるようだ。ちなみに。キフヌまでは1時間半の船旅。なんとなくアメリカのナンタケット島への旅を彷彿とさせる。


遂にキフヌの港に到着。近づく埠頭に民俗衣裳にサングラス姿の女性たちの姿が・・・おお、おそらくあのマダムたちが僕らの首に花のレイを掛けてくれるに違いない。ところが下船が終わると、キフヌマダムたちは団体客用のトラックや船に載ってきたマイクロバスに分乗してさっさと走り去ってしまった。なんだ団体客のツアーガイドか。
そんなわけで、クモの子を散らすように皆いなくなってしまい、残されたのは僕と数人の個人旅行客だけ。貸し自転車屋がずらりと新車を並べる中から一台選ぶ。滞在中の大切な島の脚。島の中心まで2km、宿までは3kmの道のりだ。


途中でキフヌマダムたちの集団に出くわす。スカーフにストライプのスカート、まさにネットで見たまんまのいでたち。しかも、こんなにたくさん。彼女たちは花の移動販売車に集まってきていたのだった。シャッターチャンスは一度逃すと二度目はないかもしれない。自転車を止め駐車場の芝生の上に旅行カバンを放り出して。パシャパシャ。彼女たちにしてみれば「なんだ、このいきなり乱入してきた東洋人は」なんだろうなぁ。
あらためて写真を眺める。アイロンのかかったスカーフとトラッドなスカート。きちっとした身なりを見ると、伝統を重んじるこの島の住民の人柄が伝わってくる。


しかし僕の予感の方は的中し、観光に従事していない普通のキフヌマダムをこんなに大勢見たのはこれが最後だった。人口わずか600人の島。地元民と会うチャンスは自ずと制限される。



2016年6月記



今日の一枚
” 花の移動販売 ” エストニア・キフヌ島 2016年




fumikatz osada photographie