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サイドカーの勇姿を見にキフヌ島へ行った


エストニアのキフヌ島に行こうと思ったのはネットに上がっている動画を見たのがきっかけ。それまで僕はその島の存在さえ知らなかった。動画の中ではスカーフをかぶり伝統衣装のストライプのスカートを腰に巻いたおばちゃんたちがソ連製の大きなサイドカーで疾走していた。強烈なインパクト。俄然、キフヌ島に対する興味が湧いてきて、いろいろ調べてみる。すると、出てくる出てくるサイドカーとおばさんの写真が(笑)


バルト海に浮かぶこの島は昔から漁業が盛んで、島の男性は一年のうちほとんど漁に出ている。その留守を守るのは女性たち。日常生活の様式から手工芸品、歌や踊りに至るまでキフヌ島の文化はこの女性たちによって作られてきた。公共交通のない小さな島なので住民にはライフラインとして脚が必要だ。そこで、まだソ連だった時代に本土からサイドカーが入って来た。


動画のインタビューで女性たちはこう語っていた「ソ連が崩壊して数十年が経ち、クラシックなサイドカーのパーツが手に入らなくなった。おそらく、致命的な故障がおこればバイクたちはその人生を終えるであろう」と。こうなると、なんだか居ても立ってもいられなくなって、僕は見られるうちにキフヌのおばさんたちがソ連製のサイドカーで激走する勇姿を見に行こうと決めたのだった。



島に降り立つとすぐ、動画や写真で見たとおりのいでたち(スカーフにストライプのスカート)のおばさま達たちに遭遇し感激。で、例のソ連製のクラシックサイドカーは?・・・あった。そこかしこの民家の庭に、納屋の前に鎮座している。解体され鉄屑なっているものもある。「おお、やはり絶滅危惧種だ。見に来てよかった」僕は安堵のため息をもらす。


ところが、待てど暮らせどこのサイドカーが実動してる場面に遭遇しない。朝、納屋の前にあったサイドカーが夕方なくなっていたりするから動いているような気配はあるのだけれど。持ち主に交渉してみようとサイドカーの傍で30分ほど待ってみた・・・持ち主現れず。
島で目にするのは自転車をせっせとこぐおばさまたちばかり、僕も貸し自転車に乗ってるからすれ違うと「テレ!(ちわっ)」って違う違う、こんなシチュエーション期待していないですよ今回は(笑)


結局、滞在中一度もおばさんたちがサイドカーで疾走する姿にはお目にかかれず。あるいはサイドカーは雪が降り積もるこの島の長い冬のための移動手段なのか。いや、既にお役目ご免で、観光客向けに景観の一部として日中家々の庭に飾られているだけなのかも(涙)現在はどの家もモダンな自動車を所有しているし、本土からはフェリーに車を載せて毎日観光客がやってくるのだから。


これで僕がここに来る理由はなくなってしまった。しかしこのキフヌ島、自然に囲まれてのんびりした本当に良い島だった。ということで次回はサイドカー以外のキフヌ島の話をしたい。



2016年6月記



今日の一枚
” ソ連製のサイドカー ” エストニア・キフヌ島 2016年




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