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ハブルバブル その1


今回は僕のイラン特集「ハブルバブル」の解説を絡めながら旅を振り返る。イラン初日、僕はテヘランの下町を歩いていてた。道路端の大きなガラス張りの店を覗きこむと、大勢の客がそれぞれ1台ずつ奇妙な機械の前に座ってこちらを見ているので思わずギョッとした。まるで工場の組み立てラインみたい。客と目が会って手招きされる。僕は興味にかられ店内に入ってみた。
店はチャイハーネ(喫茶店)だった。店に入ってようやく状況を把握。彼らはアンティークな機械から伸びるパイプを口にくわえて水煙草を吸っているのだった。窓の上のテレビにはイラン国内リーグのサッカーの試合が映し出されている。なるほど彼らは通りではなくテレビに注目していたのか。
「吸ってみるかい?」と店主がパイプを差し出す。それじゃあ、ちょっとだけ。「どんな味がする?」「バニラ」と僕は答えた。意に解さないようだったので「アイスクリームみたいな味」と言い換えたら周りの客が笑った。水タバコを吸ったのは初めてではなかったが、その店の光景が余りにも強烈だったので僕は今回の写真集のタイトルをハブルバブル(水煙草)にした。


テヘランを後にして僕が最初に向かったのは、イランの東の端、パキスタンやアフガニスタンにほど近いケルマン州の州都ケルマン。この付近にはアルゲバムという古代都市の遺跡があるのだが、11年前のイラン東部大地震で大部分が崩壊。訪れる観光客も減り、隣国の政情不安にともない治安も悪化したと聞いていた。さらに6年前の日本人の誘拐事件以後、外務省のhpでは依然「注意喚起」のまま。しかし、昨年行ったインドからの流れでは、僕にとってはどうしても外せない場所だ。


行ってみるとケルマンはのどかな地方都市だった。ただ、イラン常で街の面積は物凄く広い。遥か彼方の山の麓まで家々が立ち並んでいる。その山々は以前中国の西域で見た雨が降るとグズグズと崩れてしまうような泥の山。通りは並木道になっている。これもまたシルクロード共通の景色だ。中国新彊のカシュガルからもインドのジャイサルメールからも1500キロ。なるほど人も風土も文化も密接に繋がっている感じがする。
一方、人々の顔は意外にもバラエティに富んでいた。アフガニスタン人なども多く住んでる地域だからか。アフガニスタン人と言うと、なんとなく彫りの深い顔にヒゲというイメージがあるけれど、実は僕と同じようなモンゴロイドの顔をした人が多い。バザールで写真を撮っていると「彼らも撮ってあげて」と冗談混じりに僕と同じような顔の子供たちが引っ張り出されて来る。「僕たちカブール出身なんです」ふむふむ、同じ顔をした人の仲間意識というのはやはりあるんだね(笑)
改めて世界地図を眺める。なるほどアフガニスタンはパキスタンに比べると少し上(北)にずれあがっている。中国の西端から漏れて、キルギスあたりからの流れと考えるとなんとなくその顔立ちの説明がつく。


そんなケルマンの見処はバザール。この旅で幾つもの町のバザールを見たが、ケルマンのバザールが最も綺麗に改修されていた。さらに、まだまだ増築されて行く気配。大都市ではモールなどの商業施設が充実してきて、その影は薄くなっている。しかし、ケルマンのような地方都市だとまだまだ生活の中心で、バザールに行けば大概の物が手に入る。バザールには世間話をする相手もいる。
さて、それではケルマンの治安は結局どうだったかというと、街中なら恐らく問題ない。ただし、郊外には移民など経済的に恵まれない人たちの住む区域が多いようで、 そこではちょっと怖い思いをした。「カメラを俺にくれ」としつこく迫られた程度だけれど(笑)ヨーロッパだったらあるいはアウトだったかもしれない。
残念なことに危ういものと楽しいことは大抵意地悪く隣り合わせに並んでいるものだ。


2014年2月記



今日の一枚
” 水煙草 ” イラン・テヘラン 2013年




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