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イランギャルのヘジャブがずれ上がってきてる件 その2


イランという国の印象をどう説明したらよいだろうか?そう「非常に校則の厳しい伝統校」のような感じである。公共の乗り物は男女で席が分かれている。路線バスなら男が前、女が後ろである。地下鉄は扉のような仕切で一応男区画と女区画が別れている。乗合いタクシーも男女別。夫婦、家族は自家用車やバイク持ちが多いというのはそういう事情からかもしれない。
もうひとつイランの厳しい決まりの中に「服装コード」がある。女性はヘジャブという黒い布で頭を隠す。外国人旅行客も例外ではなく、女性はこのヘジャブもしくはスカーフを被らなければいけない。もちろん肌を露出するような服装もご法度だ。一方、男性は女性ほど厳しい規則こそないが、やはり身なりはきちんとしている。もちろん最近はTシャツ姿の人もいるけれど。基本は襟付きのシャツ、シャツの裾はズボンの中である。要は、イランはきちんとした国だということだ。由緒正しい「イラン学園」に一日体験入学するならば、校則に従って身なりを整えなさいということ。たとえ普段は穴のあいたジーンズを腰で履いてもね。


ところが、今の時代否が応でも外国からの情報が入ってくる。海外から観光客も押し寄せる。厳しい規則から少しだけはみ出してみたい、ささやかな自由を楽しんでみたい。これは人の常です。特にイランのような保守的な国で女性たちの変化はとても興味深い。
男たちが集まりにぎやかに談笑し、水タバコを楽しむ街のチャイハーネ(喫茶店)から遠く離れた川の岸辺で若い女性たちが静かに水タバコをくゆらしている。体育館の裏で隠れてタバコを吸うのとはわけが違う。アルコールランプのお化けみたいな水タバコの道具一式はけっこう大掛かりだ。流行の大きなサングラスをした女の子たちが町を歩いている。女性たちのヘジャブが後ろにズレ上がり、金髪に染めた前髪が覗いている。どこで染めているのだろうか?ヘジャブの中も金髪なんだろうか?と妄想、いや想像が広がる。
「イランもまた世界と同じスピードで進んでいるんだなぁ。それにしても、あの娘のヘジャブちょっと後ろ過ぎやしないか?」なんだかこっちがハラハラしてしまったりして。高校生の父親になったような気分である。「おい、ちょっと制服のスカート短かすぎるんじゃないか?」みたいな(笑)


冗談はさておき、イランもまた世界の多くの国と同じように、新しい考えと保守的な考えが混在している。バス停の女の子たちに声をかける青年もいれば、いぶかしそうにそれを眺める老人もいる。写真撮影に応じてくれる人もいれば、慌ててへジャブで顔を隠す人もいる。ファストフード店の中でカメラを構えると、席に座った客が「ミスター!」と厳しい顔で首を左右に振る。彼は国家の「風紀委員」か、はたまた保守的な大人か?とりあえず謝る。こうして春の芽吹きのような自由な雰囲気の中でいつもの調子で写真を撮っていると、時々「イラン学園」の校則を踏み越えてしまう。
何でもありの自由な校風かぁ?昔はそういうのに憧れた。でも、自由すぎるのもけっこう疲れる。それに、なんとなく「俗」に下ってしまいそうじゃないか。少なくとも僕には、イランの伝統格式と自由の混ざり具合が今まさにちょうど良い感じ。イランギャルのヘジャブもまた良い感じ。


2013年12月記



今日の一枚
” スケッチブック ” イラン・エスファハン 2013年




fumikatz osada photographie