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トッポジージョ


3週間ほどマルタで過ごしシチリアに戻ってきた。シラクサの旧市街を巡る海岸線の道路を歩く。道路の鉄柵に3週間前には無かった穴が開き、ぐちゃぐちゃになったフィアット500が遥か下の岩肌にたたきつけられている。そして、その横には真新しい花束が投げられていた。気がつけば、この狭い道路の鉄柵には驚くほどのたくさんの穴が開いていて、そこかしこに花束が供えられている。イタリア人だなあ・・・


「お昼でも食べようかな」と路地裏を探す。道の両側にスパゲッテリアが2軒。昨日、どちらに入ろうか悩んだ店だ。「今日は昨日と違う方に入ろう」と店に入りテーブルに着いた。間もなく、店主らしき男が出てきてこう言った。「オマエ、昨日向かいの店に入っただろう。二度と向かいの店で食べないと約束しろ。できないなら出ていけ!」正直、この態度にはかなりカチンと来た。しかし、それほどまでして食べさせたいということは、自分の料理によほど自信があるに違いない。思い直し、気弱な声で「約束します」と答えた。 結局、料理の味は向かいの店と大差無かった。単なる店主の「ひがみ」だったようだ。イタリア人だなあ・・・


夕暮れの街角で「トッポジージョ!」と後ろから声をかけられ、反射的に「ハッ」と振り向いてしまった。僕は子供のころ「トッポジージョ」と呼ばれていたからだ。ジージョはTV番組の人形劇の主人公のねずみで、大きな耳と2本の前歯がチャームポイント。当時の僕も大きな前歯が2本生えていて耳が大きかった、それがニックネームの由来だ。ニックネームというのは、そんな感じで簡単に付けられる割に生涯つきまとって来るものだ。
呼びかけた子供は振り向いた僕などには見向きもせず、もう一度大声で叫ぶ。すると前を歩いていた少年が振り返った。「負けた・・・」少年の顔を見てそう思った。はて「トッポジージョ」というのはイタリアの番組なのかな?と疑問に思い、辞書で名前を調べた。「ねずみのジージョ」という意味だった。ヤツめイタリア人か・・・


2006年4月記



今日の一枚
” ブルーエンジェル ” イタリア・シチリア島・シラクサ 1994年


1 原始物理学を勉強しないか? その1 2 葬列の過ぎぬ間に  イタリア人の食卓 




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