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楽園のボンネットバス その2


サモアの家庭の自動車保有率は高いし道路の舗装も良い。それでも人々がバスを利用するのはやはり圧倒的に安いからか。その一方で、この色鮮やかなボンネットバスは旅人にはちょっと不便な乗り物だった。効率的に島を観光するならレンタカーかスクーターを借りたほうが良い。


それでもあえてバスを利用してみると色々な発見がある。サモアの人たちの日常が見えてくる。トラックの荷台に殻をかぶせたバスの車内には教会のような木製の椅子が並んでいる。座席にはささやかなクッション、クルマのサスペンションはトラックのままなので乗り心地は悪い。路面の凹凸が直接お尻に伝わってくる。
車体の最後尾には穴があいていて、長物の運搬や荷物の出し入れが出来るようになっている。窓ガラスはないが、透明のアクリル板が窓枠の底に格納されていて、雨が降った時には吹き込まないようその板を引き上げる。
とても原始的な作りだが所々にサモアの職人技みたいなものが垣間見られる。例えば天井。細い木板を寄せ、それを梁で繋ぎとめることによって微妙なアーチを作っている。あくまで僕の推測だが、木製の船を作る技術の応用じゃないかな。同じような天井のつくりを僕はサモアの教会で見た。その梁を丸くくり抜いて2本のロープが前後に伝っている。先端は運転席の上まで繋がっていて、乗客がロープを引くと運転席の降車ブザーが鳴るという仕組みだ。よく見ると内装は殆ど木で作られている。


日中は比較的空いている。朝遅い時間と午後早くは学校の生徒が乗ってくる。早朝と夕方は通勤客でぎゅうぎゅう詰めになる。椅子に座った人の膝の上に他の乗客が坐る。それがマナーらしい。車内はラグビーのスクラムのようだ。サモアがラグビー強豪国である理由がなんとなくわかった。先に書いたとおりに旅行者の行動パターンは逆(朝郊外へ向かい、夕方町に帰ってくる)なので僕はこのスクラムに加わることはなかった。話のネタに経験した方が良かったかな。まあ、その後町に帰って来る手段がないけれど(笑)


最後にもうひとつ。日曜日にはバスは一切運行されない。店舗もすべてお休み。敬虔なキリスト教国であるサモアでは日曜日は安息日、教会に行く日だからだ。



2019年4月記



今日の一枚
” 木製のバス ” サモア 2019年




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