<< magazine top >>










日本海側


関東平野の真ん中で生まれ育った僕にとって、太陽にキラキラと輝く夏の太平洋はいわば憧れだった。成人するまでに、千葉から、岡山、四国あたりまで、太平洋岸のおおよその半島や湾には行っていたような気がする。
一方、「日本海」のイメージってモノトーンだった。サザンオールスターズの極彩色のナンパなイメージとは対照的。荒れ狂う海にウミネコが鳴く。恋に破れた女がひとり。ああ、悲しみ本線日本海、って誰ですかこんなイメージ植えつけたのは(笑)


ところが、ある時期を境に僕は日本海が好きになった。多分、自分の車を運転するようになってからだ。そして、それまでの日本海側に対する僕のイメージが全くの偏見だったということに気がついた。
そこから「食わず嫌い」だった日本海側の逆襲が始まった。ことあるごとに出かけるようになり、結局、北は青森の竜飛岬から西は鳥取まで走破した(笑)
太平洋側にあるようなものはおおよそ日本海沿岸にもあった。そう、砂浜の海岸線も、青い海も、大漁旗はためく漁港も、都市も、古都も、砂丘も・・・ただし、太平洋側のような大きな工業地帯はないかな。その分、海が近いんだ。車なら文字通り波打ち際を走れる。一度、車ごと波しぶきをかぶり怖い思いをしたことがある。台風が接近した9月の男鹿半島(秋田県)でのこと。反対に日本海側にしかないもの、それは海に沈む夕日です。


今年も海水浴のシーズンとなり、ぶらりと新潟の海にやって来た。泳いだ後、夕方の海岸線をしばしドライブした。日本海は夕日の彼方まで凪。8月の海ってこんなに穏やかなんだね。ところどころに集落が現れる。黒っぽい瓦屋根に板壁。伝統的な木造家屋が何軒も建ち並ぶなんともいえぬ塊感が好き。その景色に見せられて今までに何度車を止めたことだろう。
そいういえば、子供の頃こういう板壁の家に住んでいたんだよなぁ。もっと小さな家だったけど。
ウクライナあたりでも古い木造民家を見たが、板壁の貼り方はずいぶん異なっていた。それぞれの風土に根ざしているから木材もつくりも違ってくるんだろうね。木板が横に貼られていて、細かい梁が縦に入っているというのは日本の特徴かな?綺麗にメンテナンスされている家々を見ると、こうした伝統的な家屋をきちんと修繕してくれる大工さんが新潟にはまだたくさんいるのかしら。


「こんにちは」自転車に乗った近所のおばさんが通った。
「気をつけて。また来年も来てくださいね」民宿の主人が東京のナンバーの車を送り出している。
「さあ、いこうか」じいちゃん、母親、子供、親子三代で犬の散歩。
海にはカモメが飛び、裏山からは蝉時雨。まさに日本の夏景色。
ところで、この辺り冬はどんな風景になるんだろう?やっぱり11月頃から急に演歌調になって行くんだろうか?うーん、見てみたい・・結局、自分の「味覚」が大人になったのだということに気づく。



2015年8月記



今日の一枚
” 板壁の先の海 ” 日本・新潟県 2015年




fumikatz osada photographie