<< magazine top >>








長田文克の人類小図鑑 その3


まだまだ話は終わらない。再びイランに戻り、その顔が南にどんな影響を及ぼしているのか見てみよう。イランを南下してホルムズ海峡を渡る。アラビア半島のカタール、UAE、イエメンはイラン顔の流れだ。さらに、紅海を越えたジブチやエチオピアは人種的にも地理的にもイエメンに近い。


それでも、エチオピア人の顔の中に遠くイランの要素が含まれているのはなんとなく不思議だ。褐色の肌のエチオピア人の顔にもはっきりした小鼻、それに覆いかぶさる鋭い鼻筋が確認できる。目も例のアーモンド形。しかし、エチオピアは多民族国家でオロモ族に代表される南(ケニア方面)からの影響も大きい
ケニア、タンザニアとさらに南下すると人々の顔はアフリカ人のそれに変わってゆく。全体的には低く丸くなるけれどボリュームと長さのある鼻は東アフリカの顔の特徴。それがアフリカの最南端、喜望峰まで続くんだな、と僕はかつてのルームメイトのポートレイトを見ながら考えた。彼女は南アフリカ出身だった。


ところが、イラン系の顔という大きな峰の裾野は西側にはあまり広がっていない。それはお隣に「トルコ系」というもうひとつの峰があるからだ。イランから西ではトルコ系の顔がぐんと幅を利かせるようになる。自分の撮ったポートレイトではヨルダン人パレスチナ人がそうだ。(オスマントルコの影響か)エジプト人やシリア人も同系統。
さて、そのトルコ顔の特徴はというと。これもまた鼻と目に注目。トルコ系の鼻は高くて幅が狭い。上から下まで小鼻が広がることなく同じ幅で行く。(車のデザインだとワンモーション・フォルムっていうのかな)鼻筋がややぼやける。鼻先が丸い。眼窩がくぼみ、鼻が額からぶら下がるような印象もある。一方、目は丸く、大きい。(おめめパッチリ系)目尻も下がり顔全体の印象はより柔和な感じに映る。
セルビア、マケドニア、アルバニア、ギリシャなどバルカン半島もまたトルコ系の顔が幅を利かせるところのようだ。ギリシャ彫刻の顔を思い出して欲しい。え?思い出せないって。それじゃあ、テルマエ・ロマエを思い出して欲しい。おそらくモデルの顔は彫りが深く、幅が細く丸みを帯びた高い鼻が額からぶら下がっているのではないだろうか?


それではイランのすぐ西隣のカフカス3カ国、アゼルバイジャン、アルメニア、グルジアはどうかというと、ここもイランではなくトルコ顔がメイン。イランより西の東欧諸国の中で唯一僕が写真を撮ったことがあるのはウクライナだが、ここもまた人々の顔の中にトルコ系のパーツが散見される。
つまり、以後欧州ではこのトルコ人の顔が基本となる。そこから髪の毛の色、肌の色、瞳の色、目と眉毛の距離、眼窩のくぼみ方などでさらに細かく枝分かれしてゆくのだろう。「だろう」?そう、欧州に関してはあくまでも「推測」の域を出ない。なぜなら、僕は見解を出せるほど欧州の人々の写真を撮っていないからです、はい。


一方、ふたたびアフリカ大陸に目をうつせば、欧州に呼応するかのように東から西へと顔が変わってゆく。例えば、アフリカの東肩エチオピア人がイラン系の顔立ちなのに対して、西肩にあるモロッコの人々は角がとれた高い鼻、窪んだ目などトルコ以西の顔の特徴を持っている。
濃い肌を持つアフリカ人もまた同じ。東に比べて西アフリカのセネガル人の鼻は小鼻が目立たず丸みを帯びている。短くシンプルな造形。間隔の開いた目などよりマイルドな印象になる。


2013年11月記



今日の一枚
” ポートレイト ” イラン・テヘラン 2013年




fumikatz osada photographie