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ラジオの向こうに垣間見えるアメリカ その1


AFRTSという放送局が日本にある。Armed Forces Radio & Television Service というなんとも長たらしい名前の略だが、簡単に言ってしまうと「在日米軍放送」である。昔は「FEN」と呼ばれていた。こちらの方がピンとくるひとが多いかもしれない。


似たり寄ったりの国内の番組に飽きると、僕はこの米軍のラジオ局にダイヤルを合わせる。AFRでは独自の番組も放送しているが、アメリカ本国の公共放送・NPR(National Public Radio)や民放ネットの番組も数多く放送されている。インターネットで世界に接することのできる時代だけれど、今でも僕たち日本人がアメリカの社会、アメリカ人の考え方を知る手っ取り早い方法はこの放送局にチューニングダイヤルを合わせることだと思う。
番組の中でいくつか僕が感銘を受けた、あるいは日本とアメリカの違いを痛感したものがあるのでここで2つばかり紹介したい。


まず一つ目は2011年福島の原発事故から数日後の放送だ。その日AFRでは横田基地のタウンミーティングを生中継していた。基地の住民たちが軍の担当官に放射能汚染の危険性について質問していた。原発から50マイル圏内には入らないこと。横田基地の放射線レベルと安全性、救援活動から基地に戻ってくる機体は汚染されているものとして検査と除染を徹底することなど、住民からの率直な質問に対して軍の担当者は包み隠さず応答していた。
そして日本人同様不安の只中の基地の住民たちに担当官は最後にこう付け加えた。「不安な気持ちはよく解ります。でも、飛行機に3時間も乗れば南の島のビーチに寝そべることもできますよ。幸い首都圏の空港はすべて正常に機能しています」冗談ではなく僕はこの担当官の言葉に救われた(笑)


一方、その頃わが国のNHKは何を放送していたかというと「選抜高校野球」だった。(有料放送全盛期、見たい番組にだけお金を払うというこの時代に、なぜ万人から受信料を取る放送局が存在し相撲と野球ばかり放送しているのか僕にはまったく理解できないのだが、そのことはまた何かの折に触れよう)
民放は例の「直ちに影響はない」という大本営発表の記者会見の繰り返しだった。汚染の状況も一切つまびらかにされず、非難区域も定まらない。テレビから流れるのは「がんばろう」のスローガンばかり。「きっと戦時中もこうだったんだろうなあ」と軽い自己嫌悪に陥ったりして。


しかし、未曾有の事態にアメリカのコミュニティがどのような対応をするのかを偶然知りえたのことは、自分にとってなかなか貴重な体験だった。アメリカ社会は起こった出来事にきちんと目を向け、皆で策を講じていた。


2013年7月記



今日の一枚
” ボーリング場「トモダチ・レーン」” 日本・東京都米軍横田基地 2013年




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