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インド、列車の中の旅 その2


とにかく僕は言われたとおりゴミと人糞だらけの敷石の上を後方に向けて走り始めた。周りに灯りはない。もしここで列車に置いていかれたらここで野宿か、こんなに寒いのに・・・「ガタンッ」突然、連結部が大きな音をたて鉄の車輪が回りだした。「うわっ、まずい!」あわてて近くのドアによじ登る。これアクション映画ですか?
よじ登った車両で乗客に聞く「S5に行きたいんですけど」「S5?ずーっと前だよ」との答え。「え?だってずっと後ろって言われたから移動してきたんです」「あーちょっと待って」デッキに立つ乗客一同で話し合い。「2両後ろ」という結論が出た。

次に停車したのは一応駅だった。僕は2両後ろに移動。客室に入りベッドの番号を探す。付近の家族連れに切符を見せる。「ははは、ここは一等寝台ですよ。S5ってもっとずーっと前の方だと思う」「えっ、2両後ろといわれたから来たのに・・」「まあ、次の駅までここでゆっくりしていきなさい。あと30分ぐらいあるから」と席を空けてくれた。ああ、それにしても一等車はいいな。ゆったりしてて・・このままずっとここでお世話になろうかな・・・いやダメだ。やがて車掌が近くを通った際に家族連れはS5の場所を聞いてくれた。2両後ろ・・だそうです(笑)

列車が駅に着き、家族連れに礼を言って列車を降りた。再びバッグを担いで走る。停車時間は短い、車両はバカみたいに長い。2両後ろの車両のデッキに潜り込む。おそるおそる周りの乗客に聞く。「あのぅ、このS5という車両はここですか?」ひとこと「わかんねっす」無理もない。立ちん坊の乗客にとっては二等車であればどこでもいいのだ。
その時ふと、遥か彼方の上段ベッドの青年と目が合う。人ごみの中からハンドサインで大きく「S5?」青年うなずく。「サンクス」と僕も親指で礼。しかし、その親指は目の前の人ごみを見たとたんに180度回転下向きになってしまった。とにかくデッキから通路にかけて人、人、人。車両の中ほどには入っていけそうにない。結局、それから2駅、僕は満員のデッキに立ち、やっとたどり着いたときには見知らぬインド人のおばさんが自分のベッドで気持ちよさそうに寝息をたてていた。とりあえず、その下の空いているベッドに潜り込む。デリーを出てから2時間が過ぎていた。疲れた。


そして今、再び悪夢が。アグラという駅で僕はデリーに戻る列車を待っていた。ところが一向に列車は来ない。隣のホームの列車がなんとなく怪しくて発車間際に聞いてみると、やはり僕の待っていた列車だった。どうやらホームが変更になったようなのだ。とにもかくにも慌てて乗った車両は一等寝台。そこで車掌に一等寝台の運賃か二等車への即刻移動を迫られた次第だ。


それにしても、インドの列車はもう少しオーガナイズできないものか。少なくとも列車の編成表くらいは作るべきだ。あとで車両の側面に車号表示があることを教えられたものの、大きな車両にあんなに小さな三角柱の表示板では解るまい。一連のドタバタ劇の中で僕が唯一学んだのは「列車は不親切だがインド人は親切だ」ということだ。


2013年2月記



今日の一枚
” 長い列車 ” インド・デリー 2012年




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