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ツいていない日 その1


アジスアベバへ向かうバスは朝5時半にゴンダールの広場を出発した。エチオピアの長距離バスは大体朝5時頃の出発。早起きはつらいけれど出発時間が同じだから間違えることはない。
けれども、エチオピアの暦と時刻は西洋のそれと違っていてすごく紛らわしかった。日の出の頃、朝6時がエチオピア時の0時。つまり一日の始まりが0時というわけだ。
慣れればどうってことはないのだが、バスの券面に「出発時刻、11時」と書かれているからと旅行者が昼の11時ぐらいにノコノコとバス停に行くと、バスはとうの昔に出発していることになる。これに外国との時差などが加わるともう何が何だかさっぱりわからなくなる。一体、今は何月何日の何時なんだろうか?(笑)


さて、話をバスに戻そう。思い返すとアフリカで夜行バスというものに乗った覚えがない。おそらく安全上の問題だと思う。エチオピアもその例外ではない。エチオピアの山道をヘッドライトだけで走るのはやはり無謀だ。必然的にバスの運行は日の出前から日没までということになる。つい何年か前までは地方への路線は2日がかりが当たり前だった。乗客たちは中継地点で宿をとり1泊して翌日再びバスに乗り込んでいた。けれども道路が整備され、今は南部を除いてほとんどの地方都市間は1日で移動できるようになったと聞く。
ゴンダールからアジスまでは600km。時間のない旅行者だと飛行機を使う距離だ。とはいうものの12時間という所要時間を除けばこの長距離バスの旅はそれほど苦痛ではない。なぜなら、バスも近代的なものだし、道路もきれいに舗装されているからだ。何よりもエチオピア人の乗客たちと道中を共にするというのは魅力的。


バスに乗って1時間足らずで夜が明けてきた。エチオピアの一日の始まり。雨季の雨に洗われた緑の丘陵地帯が美しい。バスは緩やかなワインディングロードを快調に飛ばす。時間がたつにつれバスが少しスピードを落とし、クラクションを頻繁に鳴らすようになった。窓の外を見ると歩行者の数が多いことに気がつく。家畜を引きながら歩くもの。大きな風呂敷包みを頭に載せるもの、薪を運ぶもの・・・そこで僕は今日が土曜日だということに気づいた。土曜といえば町々で市がたつ日だ。人々は長い距離を歩いて街に出る。バスも人も家畜も一本しかない幹線道路を使うわけだから道路がすごく混み合っている。最初は「街を越えれば歩行者は減るんだろうな」とたかをくくっていた僕だが、街の向こうは次の町へ行く歩行者で一杯だった。どうやらこれがアジスまで断続的に続くようだ。土曜日に移動すべきではなかったと少し後悔。


街に入ると道路は半ば無法地帯となった。家畜が引く荷車が道を塞いだり、人が道路を横切ったりといった具合だ。最初はクラクションで応対していた運転手もさすがにイライラしてきたらしく、道路に立ち止まる馬のお尻をバスのボンネットでチョンと小突いた。僕は少し驚いた。なかなか強引だなぁ。
それでも、人や家畜の数は時間と共に増えるばかり。やがて、道路の真ん中で野良犬がじゃれ合っているのが見えてきた。運転手はクラクションを鳴らしても逃げないのでそのまま通過。ゴン!「キャインキャイン!」という音と共に野良犬はバスの下に吸い込まれて行った。これにはさすがに「おうっ」という驚きの声が乗客の間から上がり、みな目を丸くした。
こうなってくるとこのバス次の餌食はいったい何なのか心配になってくる。もはやモニターに映し出される映画なんかどうでも良くなってきた。ひたすらバスの前方を注視する。しかし、何も起きない。早起きのせいもあって、僕はやがてウトウトウト・・・・


2012年11月記



今日の一枚
” 土曜市の少年 ” エチオピア・ダンベシャ 2012年




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