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エチオピア その2


そんな新発見と反対に自分の期待していた通りだったことももちろんある。それは例によって「顔」。顔の収集は僕のいわばライフワークだが、「顔の交差点」「顔の変わり目」という点ではエチオピアはかつてれた新疆ウイグル自治区のカシュガルに匹敵するくらい面白かった。


民族構成で最も多いのが南(ケニア)からやって来たオロモ族、北から来たアムハラ族、ティグライ族、東(ソマリア)から来たソマリ族、南部にはムルシ族などの小さなグループとエチオピアは実に80以上の部族からなる国だ。それらがモザイクのように合わさってエチオピア人の顔になっている。その顔はエジプト人やイエメン人の顔とは違う。いや、正確にはそれらが微妙に混じりあっている感じとでも言おうか。かつてのインド洋貿易のルートを考えればインドの要素も入っているんだろうな、と考えていたのだがそこは少し違った。
また一方で、どんな顔の人がどんな職業についているか観察してみると、ちょっと違った角度からエチオピア社会の現実が見えてくる。


もうひとつ、僕が楽しみにしていたのはエチオピアの公用語アムハラ語。特にアムハラ語の文字は僕にとって地球上で最もカッコいい文字のひとつ。その形状を文章で説明するのは難しいけれど、一言でいうと「染色体」のような形をしている。
አዲስአበባ ኢንጀራ
区別がつくだろうか?前者が染色体で後者がアムハラ語である。すいません。というのは冗談で前者は「アジスアベバ」後者は「インジェラ」のアムハラ文字でした。


このように非常にアイキャッチなアムハラ語なのだが、文法に目を向けるとなんとなく親近感が沸いてくる。それはアルファベットの「音素文字」と異なり、日本語と同じ「音節文字」だからだ。つまり母音もしくは母音+子音で一文字になっている。格の語順も日本語に近いし、主語も省略され簡略化されてる。単語と文字を憶えれば、日本人には比較的とっつきやすい言語かもしれない。
実は、路上の本売りに何度となくこのアムハラ語の教科書の売り込みを受けた。その度に「荷物になるから帰国前にね」と断った。売り子も簡単は引き下がらずに2割、3割引と値引きしてきて、最後は8割引位までディスカウントしてたっけ・・・結局、旅の最終日はどたばたでアムハラ語のテキストを買いに行く暇なんてなかった。買える時に素直に買っておくべきだった。


最後にもうひとつ。僕は忘れていた。エチオピア発祥の農作物といえばコーヒーではないか。地元の人は僕にこういった「コーヒーは喫茶店ではなく、手磨ぎ、自家焙煎じゃないとね」いやいや、僕にとってはエチオピアで飲むコーヒーは例外なくどれも美味しかった。
カフェに入ってアムハラ語のメニューを手に取り「ブンナ(コーヒー)」の下のこれは何?
と「ማክያቶ」を指差す。「マキヤート」とウェイトレスはさらりと言う。全く意味が解らないアムハラ語の中に「マキアート」なんて言葉が突然出てきて驚く。これは「スターバックス」が最近進出してきたわけではなく、イタリア軍占領時代の名残だそうだ。


エチオピアでは「コーヒーセレモニーに来ないか」といろいろな人に誘われた。しかし、僕は先の「上海茶会事件」がトラウマになっていて、残念ながらいまひとつ心を開けなかった。ひとつの出来事はいろいろなことに影響するものだ。


2012年10月記



今日の一枚
” コーヒー豆を磨ぐ ” エチオピア・アジスアベバ 2012年




fumikatz osada photographie