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300匹のミッキーマウス その2


竹富島の滞在も半ばを過ぎる頃、僕は観光水牛車に乗った。ガイドのお兄さんは三線も口もなかなか達者で、ある民家の前を通った時には「この家のおじぃは島一番の長寿で、毎日午後は昼寝をするんです。今日はどうかな?あ、まだ昼寝の時間には早いようですね」などと気の利いた解説を加えた。
さて、「気が利く」と書いてしまったが、個人の日課がガイドのネタにされていいものだろうか?と一抹の不安。一方、住民の側に立ってみると、プライベートの中に観光客の視線が入ってくることが、ここでは当たり前のことになっている。祭事はもちろん、敬老の日の演芸会や小学校の運動会、中学校の卒業式にも観光客のギャラリーが加わる。島民たちはそういう状況にすっかり慣れっこになっている感じだ。


悪いことだとは思わない。けれども、こういった場面に出くわす度に僕は「公私の境目がぼやけているな」と感じた。しかし、やがて気づいた。公私の境目がぼやけているのではなくて「公私の線引きの位置が違う」のだ。竹富島の人たちの「私」は、どうやらもっと奥にあるようだ。
僕にとって竹富島は非常に写真が撮り難かった場所だ。それは多分、すべてが撮ってくださいとばかりに差し出され、25万人がシャッターを切っている。それにもかかわらず、その裏側の部分には一向に踏み込めないもどかしさから来るのだと思う。


しかし、今にして思えばミッキーマウスの裏側に迫る必要性はないのだ。披露されたアトラクションをどうしてもっと素直に楽しめないのだろうか?そうすると今度は、なんだか自分が凄くひねくれた人間のように思えてくるのであった。


2005年9月記



今日の一枚
”なごみの塔” 日本・沖縄県竹富島 2002年


白夜の森の住人になる  キフヌ島と竹富島




fumikatz osada photographie