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ボレ空港の出稼ぎ娘~消えゆく日本 その1


エチオピアの山道をずいぶん走ってバスは昼食のため小さな町のレストランに停車した。あいにく満席。とりあえず、どこかに腰掛けてコーヒーだけでも飲めればいいか、と僕は中を見回した。すると「チャイナ!」とテーブルに座った3人の男のグループが手招きをする。どうやら彼らのテーブルに空席があるらしい。
男たちのテーブルは生ビールのジョッキで埋め尽くされ、真昼間からもう出来上がっている様子だった。「チャイナ」とテーブルの一人がもういちど叫んで空いている椅子をたたく。ここに座れというのだろう。経験からいくとそういうガサツな態度というのは敵意ではなく彼らなりの友好の証だ。だから僕はニコリと笑って勧められた席に腰掛けた。


「何食べる?食わないのか?ビール飲むか?」そういって男の中の一人が僕に代わって注文してくれた。互いに自己紹介をしたあと「中国人だよね?」とそこで初めて聞かれる。「いや」と僕。「ごめんごめん韓国人か」と男。僕は首をふる。「インドネシア人?」いったい僕の容姿のどこがインドネシア人っぽいのかこちらが聞きたいくらいだ。「えー、なんだよ。どこだよ」と男たち。(おいおい、大事な国忘れてるんじゃないの?)と僕は心の中で思う。ついに正解は出てこなかった。


「日本だよ日本」と僕。「ああ、日本人か」と一同。そこでみんな日本に関する話題を探し始める。「クルマでも家電でも日本製品のクオリティは一番だよ」と男。テーブルの上にケータイをとり出す。その電話には「Samsung」の文字。と、他の男が冷静に分析する。「いやいや、No1は今は韓国製でしょ」「日本じゃ・・・そうだな韓国かもしれないな。でも、No2は日本だろ?なあ」すると若い男が言う「No2は台湾じゃね?」一同考える。「そうかもしれんな」と合意。「その次はマレーシアかシンガポールか?いや、中国かな?」「中国製品はたくさん入ってきてるけどクオリティは今ひとつだよ」もう僕はすっかり蚊帳の外。ついでに日本もまた蚊帳の外。それに気づいたひとりが言う「ああ、わるいわるい。とにかく日本はさ、アジアで一番初めに栄華を極めた国だよ。なぁみんな?」「んだ、んだ」と一同が頷く。「あ、ビールが来たね。それでは改めてかんぱ~い」


冗談のようだが本当の話だ。日本が好調だった20年前も外国の町を歩いていると同じように「中国人こっちおいで」と声を掛けられたものだ。しかし、その後の反応は全く違った。実は日本人だと解るやいなや賞賛の言葉のオンパレードになった。インターネットが発達する前の世界では幻想は幻想を呼び、日本という国と先進技術はいわば羨望の的だった。
しかし時代は変わった。日本の栄光は過去の話だということをみんな良く知っている。インターネットは世界のどんな偏狭の地にも最新の情報を配信するようになった。そして、日本は人々の記憶の中から消えていっている。これはエチオピアに限ったことではない。最近はどこに行ってもこんな感じだ。


2012年10月記



今日の一枚
” ピットストップ ” エチオピア 2012年




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