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砂時計


モーリタニアの首都・ヌアクショットを車で出ようとしていた。街のすぐ近くにまで大きな砂丘が迫って来ている。この街が砂に飲み込まれるのもあるいは時間の問題かもしれない。

一歩街を出ると、そこには砂丘の連なり以外に何もない。時々現れるのは、砂に埋もれかかった小さな集落と僅かに茂る樹木、そして、道路にできた砂山を掻き出すブルドーザーぐらいだ。しかしそんなものは、この見渡す限りの砂の世界では米粒にも満たない存在だろう。


隣国へと続く道路を150kmほど走り、ブティリミットという街を訪れた。砂丘の上にへばりついているような小さな街だ。幹線道路沿いに僅か100mほど立ち並ぶ小さな店。そこが街の中心。焦げてしまいそうな強い日差しと砂の照り返しの中を歩く。昼下がり、街は驚くほど静かでゴーストタウンのようだ。

住民たちは、昼間は家の中で眠っている。テレビを見ることもなく、読書をすることもなく、ただ静かに眠る。乾いた空気の中、さらさらと砂の舞い込む音だけが聞こえてくる。


自給自足に近い生活の中で、同じような毎日が繰り返す。「今日は昨日とは違う日」だという確たる証、それは家を埋め尽くしていく砂だ。人々が眠っている間も、この「砂時計」だけは容赦なく時を刻んでいた。


2005年11月記


今日の一枚
”砂時計” モーリタニア・ブティリミット 1999年


1 残照  タイム・リミット その2

 ポスト・スクリプト ~ それから

時と共に砂に飲み込まれそうだったこの町は、その後「暴風雨と大洪水」で壊滅的な被害を受けたと聞く。砂漠化が進むモーリタニアを時として大洪水が襲うというのはなんとも皮肉な話だ。砂時計はこうして気まぐれにひっくり返される。
一方、自然災害を防ぐために植林の動きも進んでいて、緑が増えブティリミットの風景も僕が訪れた1999年当時とはずいぶん変わったようだ。

2012年9月記




fumikatz osada photographie